児童虐待と子どもの権利擁護 
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児童虐待と人権侵害調査等の歴史

 児童虐待と子どもの人権侵害の取り組みは、児童養護施設(平成11年4月より改正児童福祉法施行により今までの養護施設の名称から児童養護施設に改称されたが、ここでは歴史的流れに若干触れていくので養護施設の名称を使用する)の関係者が一番身近で子どもや親との接触を通して、切実感や悩み、模索しながら人権擁護に取り組んできた歴史がある。ここでは子どもの人権に関する調査、子どもの人権侵害に関する調査、児童虐待に関する調査等に今日まで取り組んできている全国養護施設協議会や児童相談所長会等の調査内容に視点をあて見ていきたい。

 @まず最初に取り組んだのが全国養護施設協議会が1979年(昭和54年)の5月1日現在で全国の養護施設(528施設)に入所している全児童を対象に実施した「養護施設児童の人権に関する調査」である。この調査では回収率は76.5%でしたが、在籍児の人権侵害を見てみると、人権侵害を受けている児童は22,583人中7,460人(33%)であった。
 7460人が受けた人権侵害を見てみると、(1)父または母の暴力、暴行等に起因するケースが、1,240人(16.1%)、(2)父または母の放任、過干渉等に起因するケースが872人(11.7%)、(3)父または母の精神障害、薬害等に起因するケースが462人(6.2%)となっている。特に上記のうち子どもに対する性的暴力についてみると、1960年代まではあまり直面することが少なかった。ケースとしては154人(2.1%)であった。加害者の半数近くが実父であり、被害者の女児は小学校低学年より中学生まで文字通り子どもであることから、人間形成に重大な支障を与えるもので極めて深刻な問題であることが養護施設関係者から指摘されている。

 A財団法人日本児童問題調査会が、1983年(昭和58年)度中に全国児童相談所164か所における受理した家庭内児童虐待調査を実施している。それによると児童虐待のケースは合計416ケースで、その内訳は身体的暴行223ケース(53.6%)、保護の怠慢・拒否111ケース(26.7%)、性的暴行(11.6%)、心理的虐待34ケース(8.2%)である。
 これはあくまでも児童相談所で受理されたものだけであり、他に発見されて児童相談所に受理されなかったものやケースとしてあがっていないものを含めると相当数になることが予想される。

 B全国児童相談所長会による「養護児童調査」が1984年(昭和59年)2月の1か月に限って、全国の児童相談所を対象に実施されている。全国の児童相談所における1か月間の養護児童相談ケース数は、1,581人でこの中の相談理由の虐待は67人(4.2%)、棄児は30人(1.9%)ある。1983年(昭和58年)度中の養護相談件数は、29,103人なので、年間の割合からいくと虐待件数は、1,223人、棄児相談533人で計約1,776人くらいになると予測される。

 C全国養護施設協議会は1979年の調査に引き続き、第2回目の養護施設児童の人権侵害状況調査を1985年(昭和60年)の2月1日現在の全国の養護施設の全児童数を対象に実施している。調査結果によると、回収は463施設(回収率86.1%)児童数28,676人中5,884人(20.5%)が何らかの人権侵害を受けていた。さらに養護施設入所後に3,959人(13.8%)の子どもが人権侵害を受けている。その内容を見てみると、(1)入所後、実父または実母が行方不明となったままの児童が2,211人(55.9%)、(2)学校生活で他の生徒から施設児童だとして差別された児童が664人(16.8%)、(3)入所後、実父または実母が再婚し、面会等にこなくなった児童が397人(10.0%)となっている。

 D全国児童相談所長会は1989年(平成元年)6月9日に「子どもの人権侵害例の調査及び子どもの人権擁護のための児童相談所の役割についての意見調査」結果を発表した。
 これによると、全国の児童相談所167ヶ所において1988年(昭和63年)4月から同年9月30日までの半年間に新規に受理したケースで、親(親に代わる保護者を含む)から虐待を受けた子どもは、1,039人に達し、1年間を推計すると2,100人、児童人口比でみると10万人対6.6人に及んでいる。とりわけ東京、大阪など大都市では10万人対9.8人になる。虐待種別では、保護の怠慢や拒否が最も多く、391人(37.9%)、ついで身体的暴行が、275人(26.5%)、棄児・置き去りが224人(22.0%)と続いている。また、性的暴行も48人(4.6%)あった。

 E全国養護施設協議会調査研究部と子どもの虐待防止センター等は1994年(平成6年10月20日)に「全国養護施設に入所してきた被虐待児童とその親に関する研究報告書」を発行している。それによると、1991年(平成3年)3月から1992年(平成4年)2月までの1年間に全国の養護施設535ヶ所に入所した児童5,649名を調査対象として、各養護施設の職員に依頼し調査を行っている。調査回収は382施設(回収率71.4%)であった。
 382施設の在籍児童数は20,407名で、そのうち2,931名(14.4%)が施設長および職員による被虐待児とされていた。虐待の類型別に見てみる最も多いのが、ネグレクト(56.9%)、ついで身体的虐待(20.5%)、交流(面会手紙)拒否(14.1%)、情緒的虐待(10.1%)となっている。

 F全国児童相談所長会は1989年(平成元年)6月9日に「子どもの人権侵害例の調査および子どもの人権擁護のための児童相談所の役割についての意見調査」結果を発表しているが(Eで報告)、引き続き同じ調査を1996年(平成8年4月1日〜9月30日)の半年間の調査を実施している。これによると、全国の児童相談所(175ヶ所)からの被虐待児は2,061件(前回1,039件)の報告があった。この件数を1年間に換算すると4,122件となる。
 前回は「保護の怠慢、拒否」が最も多かったのに対して、今回は「身体的虐待」の件数が多くなっている。男女別で見ると男児は「身体的虐待」「不適切な保護ないし拒否」が多いが、女児は「性的虐待」が96.0%と圧倒的に多い。虐待者で最も多いのは「実母」で50,8%、ついで「実父」28.5%、ついで「継父」、「養父」「継母」となっている。性的虐待は「実父」がほぼ半数占め、前回の41.7%よりさらに高くなっている。


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