親のための子育て経験談集 
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【非行事例3】 万引きから非行に走った娘

   私は、現在、高校生と中学生の二人の女の子を持つ父親です。 
 一昨年の学年末ころから上の娘の生活態度が乱れ出し、挙げ句の果てに万引きという犯罪まで犯すようになりました。私は、娘の非行が始まるまでは、私の家庭はごくありふれた普通の家庭だと思っていましたが、娘の非行が始まってからは夫婦関係は勿論のこと家庭そのものまでが崩壊に近い状況になってしまいました。

 娘の非行が判ったのは、家族旅行でデイ ズニーランドから帰った後、娘が多数のアクセサリーを仕分けしていたのを見て追求したところ、お土産店で万引きをしたと話したことからでした。私は、娘の万引きを知った時、驚きからパニックになってしまいました。
 私は、それが親への裏切り行為に映り、無性に腹が立って、娘の首根っこを掴んで警察に連れて行きました。娘は、顔を歪め悲痛な顔をしていましたが、私は構わずに警察に連れて行きました。

 警察には妻が事情を説明しました。というのは、私自身が興奮しており、とても警察官に説明できる状態ではなかったからです。警察の調べでは万引きした商品は全部で二万円位でしたが、被害に遭われた方が「商品を返してもらえれば良い」と言われたので娘は罪を問われませんでした。しかし、事情聴取で、娘が私たちの目を盗み深夜に外出や嘘をついて宿泊をして不良少年と付き合っていることが判りました。その他にも私が知らないことがいくつもあることに驚きました。妻はある程度気がついていたようですが私と妻との会話がなかったため、娘の事は私には伝わらなかったのです。
 警察からは、「再非行防止のために継続的な補導をして見守っていきましょう」と言われました。それは、警察官や補導職員、学校の先生などが協力して娘が二度と犯罪を犯したりしないようにサポートをしてくれるというものでした。具体的には、学校での生活状況を担任の先生等に教えてもらい、家庭でのしつけに生かしたり、親子で警察や補導員と面接をして指導を受けました。

 私は、子育てについて特別な意識を持っていませんでしたので、小学生まではどちらかと言えば優しい存在でした。しかし、中学生になり、私ははじめこそ勉強も運動も中位でほとんど何も言いませんでしたが、次第に、成績や運動など他の子と比べるようになり、少し厳しく接するようになりました。
 今思うと、私は子どものことを考えて厳しくしていたというよりは、むしろ、「子どもが親の言うことを聞くのは当然」という意識で厳しくしていたように思います。ですから自分の子どもが現在どんなことを考えているのか、どのように生活しているか、どうしたいと考えているのかなどは考えもしませんでしたし、ほとんどは妻任せでしたので、子どもが夜遅くなった時などは、「おまえが甘やかすからそんなふうになるんだ」と子どもは勿論、妻まで怒鳴りつけていました。

 私は長女が非行を犯したことを知ってから、夫婦関係を改め、親子間のギャップを少しでも埋めるように努力をしました。
 そして、子どもの話をできるだけ聞くようにし、警察から紹介された「居場所」と呼ばれるサークル活動にも娘と参加しました。また、娘は悪い友達との交遊により怠け癖がついて遅刻が増え不登校気味になっていたので、担任や生徒指導の先生に相談し、皆と同じように学校生活が送れるよう協力をお願いしました。とにかく私たち親は、子どもと一緒にいる時間を増やし、子どもとの溝を埋めるとともに子どもを不良仲間から切り離そうと努力したのです。
 しかし時間の感覚がなくなり、物の価値観、勉強の必要性等は全く意に介さなくなるほどにまで常識から外れてしまった娘にとっては、私といる時間は自由のない苦痛の時間でしかなかったことと、私が急激な変化を求めたことから娘は更に心が離れていきました。

 そして再び不良仲間とスーパー等で万引きするようになり、もはや更正施設等へ隔離して不良仲間から切り離すしか方法がないと思いました。その時に、県外に私の娘のような非行少年を受け入れてくれる全寮制の施設があることを知りました。
 私は、娘を「このままではいけない。何とか目覚めて欲しい」と説得して、その全寮制の施設へ転居させ中学校を転校させました。
 そこは民間のため高額な費用が必要でしたが、娘の将来を考えるとお金の事を考えてはいられませんでした。

 入寮させて数か月が過ぎて中学校を卒業するころになり、「高校に入りたい」等と真面目になってやり直したいと反省の態度を見せたので一時帰宅させることにしました。しかし、自宅で生活をはじめると、当時の不良仲間と再び接触するようになってしまいました。そのため、やはり自宅では生活させられないと考え、県外の全寮制高校に進学させ現在も家族と別れた高校生活を送っていますが、以前と比べれば随分落ち着いた感じになっています。
 私たちは、本当に長く感じる時間と膨大なエネルギーを費やしながら兎に角ここまでやってきました。
 今でも子どもに対し取り返しのつかない悪いことをしてしまったと後悔をしています。父親として私は「自分の思い通りに育って欲しいし、またいつでもそれは修正できるはずだ」というおごりを持っていました。しかし、子どもは身体が成長すると共に心も成長し、中学2・3年生にもなれば自分の考えを持って当然なのに私はそれすら気づかなかったのです。また、娘が悪いことをするのにはそれなりの理由があったのです。ですから私は上からものを言うのではなく、娘を理解するための会話をする必要があったのです。

 人は他の人との関わり合いの中で生きていく存在です。娘は非行を犯し多くの方に迷惑をかけながらその人と人の関わり合いの中で助けていただきました。
 私たちは、「人はお互いの関係の中で生きていくしかない。だから、お互いが許し合い助け合うことが大切なのだ」と励まし合いながら娘が立ち直るようにがんばっています。

<本体験で参考となること>
@ 子どもの非行は、家族へのある種の警告であること。
A 子どもの非行の立ち直りには、家族の支えが必要であること。
B 子どもの非行の立ち直りには、家族と離れることが転機となる場合もあること。
C 子どもの非行への対応は、警察署の指導を受けることも大切なこと。

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