親のための子育て経験談集 
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【非行事例2】 「僕のこと、わかって欲しい」−お金の持ち出しを繰り返す息子−

   小4までの息子は、いつも「ボクのこと、わかって欲しい」と言っていました。保育園の頃から落ち着きがなく、部屋から飛び出したり、むやみに他の子をたたいたりしました。
 小学校に入ってからは、嫌いな授業の時に教室からいなくなってしまったり、他の子どもたちができることがなかなかできないことがよくありました。友達ができなく、一人でゲームをしたりカードを集めたりしていました。
 4年生になってからは、家からお金を持ち出して、お菓子やおもちゃを買ったり、他の子におごったりする日が続きました。
 「わかって欲しいというけど、なぜそんなことするのか全くわからない。どうしてそんなに落ち着きがないの」、そんな気持ちでした。

 ある夜、とうとう父親が激しく息子をしかり飛ばしました。
 「何回言ったら、金を盗まなくなるんだ!」
 「そんな子は家から出て行け!」
 息子はそのまま家を出て行ってしまいました。しばらく家の近くを探しましたが、見つかりません。2時間ほど経ったでしょうか。交番のおまわりさんに連れられて、戻ってきました。警察の人には事情を聞かれるとともに、児童相談センターにこのことを伝えると告げられました。「児童相談センター?私たちが虐待をしたってことなの?」と不安になりました。

 次の日、電話があって、児童相談センターの人が尋ねて来ました。息子と一緒に児童相談センターに来て欲しいとのことでした。虐待を疑われているのかと不安になりつつも、嫌がる息子を連れて、児童相談センターを訪ねました。
 児童相談センターでは、息子が生まれてからのことや私自身のこと、家族のことなどをいろいろ聞かれました。その間、息子は心理検査を受けていたとのことでした。そして、しばらく児童相談センターに通うように言われ、息子についての評価と今後の関わり方の助言をもらいました。
 「落ち着きなく、よく動き回ること。それは親の育て方の問題ではなく、どうももともと本人が持っている特徴であること。しかることが多いが、ぜひほめることを意図的に見つけてほしいこと。本人が得意にしていること・好きなことをしっかり評価してほしいこと」などの話があり、さらにA市民病院の小児科を受診することを勧められました。
 A市民病院、子どもが小さい頃かかったことのある病院ですが、通院に対して気が進まないまま日が経っていきました。
 その後、お金の持ち出しはおさまりましたが、外泊し、他の人からお金をもらうという「事件」が起きました。そのことがあって、迷いはありましたが、やっとの思いで病院を受診しました。「多動性障害かもしれませんので、大学病院を紹介します・・・」。

 大学病院で注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断され、薬が出されました。児童相談センターでの話であらかじめ可能性を言われていましたが、やはりショックでした。
 小学校の担任の先生には、ずっと息子を受け持ってもらっています。授業を妨害しても飛び出しても根気強く本人と話をしてもらい、放課後も息子と二人でわからない勉強に付き合ってもらってきました。皆の中にいると暴れてしまう息子も、先生とは苦手なことも少しは取り組んでくれるのです。
 その先生からも薬のことは聞いていました。しかし、息子は薬を飲むと眠たくなると言って、なかなか飲まないこともありました。しかし、イライラすることは息子自身も困っていたようで、受診して2か月目からはきちんと飲むようになっていきました。

  「お母さん、B君のところでゲームしてくるよ」
 ゲームをする友達が一人できました。文章をちゃんと読むことは相変わらず苦手ですが、以前から好きだった計算問題は自分から進んでするようになりました。
 まだまだ心配なことはいっぱいありますが、「僕のこと、わかって欲しい」とは言わなくなりました。今は熱中したいことがいっぱいみたいです。

<本体験で参考となること>
@ 対応に困った時、親子がうまく行かない時は、相談機関に行くこと。
A 専門病院(具体的には相談機関で紹介を受けてください)に受診することは勇気のいることですが、そのことで見通しが立てられることが多いこと。
B どんな子どもなのかという専門家の評価(アセスメント)は大切だが、服薬も含めて、継続的な対応が必要であること。
C 周囲の援助を受けながら、日々の変化をきちんと見つめていくことが大切であること。
 

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