親のための子育て経験談集 
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【不登校事例2】 巣立ちをうながす母の学び

   中学校1年生の2学期に突然動けなくなった息子を見て、私は目の前が真っ暗になりました。不登校という言葉は知っていましたが、我が家とは全く関係のない言葉だと思っていましたので、大きなショックを受けました。病院での診断では、登校刺激を与えてはいけないと言われ、何も言わずに見守ることにしました。同居の父母は、私の態度に対して、かなりきつい小言を言われ続けました。とても辛い思いをしていましたが、まもなく登校できるようになり、ほっとしておりました。

 ところが、3学期になると、再び登校できなくなってしまいました。またもや父母から責められたり、近所の目を気にしたりで体調がおかしくなってきました。親子共々引きこもりの状態になってしまいました。3年生になり、担任の先生が代わって、家庭訪問を受けましたが、私は、玄関の扉を開けて、お会いすることが出来ませんでした。電話での応答を時々していました。

 夏休みに入ってまもなく、担任の先生が家庭教育相談員の人を伴って訪問されましたが、インタ−ホンでの応対しか出来ませんでした。それから、たびたび相談員の人だけで訪問をされましたが、お会いする気持ちになれませんでした。あるとき、偶然母が玄関の扉を開けて、相談員の人を招き入れました。しかたなく、玄関でお話しすることになりました。相談員の人が、大声で息子の名前を呼びかけられたら、息子が顔を出し、挨拶だけをしました。初対面の人に挨拶が出来るとは、驚きでした。その後、1週間に一度の割で訪問をしてくださり、私の悩みをじっくりと聞いて頂きました。8月の中頃、やっと、相談員の人が息子の部屋に入られました。最近全くなかった笑い声が聞こえ、心が安まる思いでした。そんな頃、相談員の人が私にカルチャ−センタ−を紹介してくださいました。全く気乗りがしませんでしたが、熱心に進めてくださるので、ペン習字を習うことにしました。週1回でしたが、写本を続けていると、だんだんと楽しくなってきました。私は、近所の人や知り合いの人とは口を利くことが出来ませんでしたが、カルチャ−センタ−で知り合いになった人達とは、気楽に話せるようになりました。家庭においても、カルチャ−センタ−での話題を笑顔で話せるようになりました。息子や父母に笑顔が見られるようになり、とても落ち着いた気持ちになってきました。しだいに、私は、近所の人とも気軽に話せるようになってきました。

 9月に入って、息子が、「相談員の人が中学校の体育大会を見学しに行かないか」と、誘ってきたが、どうしたらよいか尋ねてきました。私はいつものように、「あなたはどうしたいの」と、答えました。息子は、何も言わずに自分の部屋に入っていきました。すぐに、相談員の人から電話がありました。息子からの電話で、「母が賛成しないので体育大会には行けない」と、言っているが、どんな会話をしたのかと叱られました。「あなたでも、時には、背中を押してもらいたいときがあるでしょ」と、言われて、息子にあやまり、「私も見学したいから、一緒に行こう」と、言いました。息子は無視していましたが、当日相談員の人が迎えにみえると、いきいきとして「早く支度をして」と、催促しました。校舎の窓からの見学でしたが、嬉しそうに独り言を言いながら見ていました。突然、一日中見ていても良いかと尋ねてきました。1時間ぐらいと思っていたので、驚きましたが、すぐに弁当を買いに走りました。昼食の時間に、担任の先生と仲の良かった友達がやってきて、一緒に食事をしてくださいました。嬉しくて、涙が止まりませんでした。

 それ以後、担任の先生とは気楽に話せるようになり、文化祭の誘いを受けました。文化祭も、離れたところからでしたが、終日見学することができました。私は、息子が学習をほとんどしていなかったので、進路のことがとても心配になってきました。相談員の人が、適応指導教室を紹介してくださり、少しずつでしたが学習するようになりました。息子も家族も普通高校を希望していましたが、とても難しいことが分かり、担任の先生と相談して専門学校に挑戦してみることにしました。目的がはっきりしたので、家でも長い時間学習するようになりました。いよいよ、願書の提出日となりました。不安一杯の息子は、やはり動こうとしませんでした。その時、相談員の人に説得された夫が、息子をなだめながら連れ出してくれました。帰ってきたときはルンルンでした。

 1月になり、受験の日も夫が連れて行ってくれました。夫は、試験が終わるまで、車の中でひたすら待っていたそうです。多くの人の支えがあって、なんとか合格をすることが出来ました。夫婦で手を取り合って、喜びをかみしめました。卒業式の会場には入れませんでしたが、校長室で卒業証書を受け取ることが出来ました。感謝の気持ちで一杯になりました。4月になり、一人で電車に乗って登校できるようになった息子が、とてもたくましく感じられました。

 <本体験で参考となること>
@ 学校との関係を大切にし、安心して相談できる人をさがすこと。                              
A 背中を押すタイミングを見逃さないこと。
B 一人で抱え込まず、家族の協力を求めること。
C 適応指導教室を活用すること。


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