事例集作成の趣旨

1 経緯
  都市化・過疎化の進行や地域における人間関係の希薄化・モラルの低下などから、地域社会の教育力が低下している。
従来、地域の祭りや行事などを通して、さまざまなかたちで大人や異年齢の子どもたちがかかわるなかで、養われてきた地域の教育力が次第に失われつつある。また、平成14年度以降、完全学校週5日制に移行し、子どもたちは、すべての土・日曜日を家庭や地域で過ごすこととなる。
こうしたことから、子どもたちの「生きる力」を育む環境(居場所)を地域に整え、取り戻すことは、急務の課題となっており、地域、家庭、学校、関係団体などが協力しながら充実していく必要がある。
愛知県社会教育委員会議として、「子どもを育む地域社会の教育力について」という協議題で、それぞれの地域でさまざまな取り組みが行われるよう、その充実方策などについて協議することとなった。
また、協議の中で、それぞれの地域にある子どもの居場所づくりに関する事例を集め、その成果や課題にも触れながら「事例集」としてまとめることとなった。
2 子どもたちの居場所をつくる必要性 

〇 居場所を失い、流される子どもたち
   高度経済成長期の60年代以降、地域社会の衰退は急速に進み、人々が流動化されるに伴って繋がりが絶たれ、地域文化や自然と の係わりも希薄化してきている。支えあえる地域社会を失うなかで、人が育ちあえる豊かさをも失うこととなった。係わりが途切れたなかでは子どもは地域社会に対する興味が持てず、自らの地域生活にも無関心なままで、個性豊かなアイデンティティーを持つことはできない。
子どもにとっての活動の土台であり、発達の重要な条件である地域社会を再生し、そこに子どもたちの居場所をつくりだす必要がある。
子どもが安心して活動でき、自立してゆくために準拠できる居場所としての地域社会を豊かに再生する取り組みが求められている。
〇 大人に管理された「良い子」の問題
   子どもは能動的に活動するなかで育つことができる。しかし、子どもを保護対象とするだけならば、子どもの活動意欲を削いでしまうことになる。少子化社会の中で、子どもは大人のまなざしをいつも意識し、それに応えようと「良い子」として生活している。
大人が一歩離れて、見守るゆとりを持ち、自由な子どもの世界を確保する事が極めて大切である。子どもの新鮮な視点や豊かな発想力そしてエネルギッシュな行動力を大切にした子どもの居場所を、大人の物差しで見ることなく、ありのままの子どもを多面的に見つめる中でつくり出すことが必要である。
〇 子育てを通しての親たちの成長
  子育てを巡って人々が結び付く状況が弱く、母親が、一人悩みいらだちながら孤立化した環境の中で育児を担っている。子育ての不安や困難を語り、模索しながら共同して子どもたちを育て、楽しみながら子育てを進めていく必要がある。子どもは家庭だけで育つわけではなく、大きくなるにつれて地域生活やあそび仲間を広げて成長する。子どもは、親をはじめとした大人の地域生活に取り組む姿勢に影響を 受け、人間らしく働く後ろ姿を見、あるいは、直接大人から働きかけられる中で育つ。大人たちが地域を見直し、その教育力を取り戻す努力 をするなかから、子どもたちの夢も育てていくことができる。子どもを地域生活と結びついた居場所で育てることが必要である。
〇 学校週5日制と開かれた学校づくり 
   子どもたちに「ゆとり」を確保し、様々な体験の機会をつくり、主体的活動を通して自らを見つめ、生きる力をはぐくむことを目指して学校 週5日制は実施されつつある。自己完結的であった学校が家庭や地域社会に積極的に働きかけを行い、相互に連携を図って子どもを育てていく必要がある。学校が連携して教育活動を展開するにあたって、積極的に家庭からの支援を受け、地域社会に支えられる子どもの居場所が必要である。そこが大人にとって、子育てネットワークの要となり、地域づくりの拠点となるに越したことはない。


3 事例集の活用等
この事例集が各地域で、子どもの居場所をつくる契機になるとともに、市町村や社会教育関係団体などが、さまざまな社会体験や生活体験を豊かにする取り組みを実施する上での参考にしていただければと思います。