子どものこころ詩のこころ 
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『のはらうた』

「工藤直子の本を何か読んだことがあるよ」という方、ちょっと手をあげてください。
 多分、それは、『のはらうた』という本だと思います。これは1巻、2巻、3巻と書いています。これが今のところ、私が書いた本の中で一番多く出ています。一番最初に出したのは12年くらい前です。どういう体裁になっているかといいますと、『のはらうた』という小さい手のひらに入るような本です。誰が書いたのかなと思って見ると、著者名のところに「くどうなおこと のはらみんな」というのが入っているのです。「なんだ、なんだのはらみんなって何なんだ」と思って開けてみますと、これが全部ひらがなです。漢字が1字も入っていません。全部ひらがなで、じゃあ絵本かというと絵本でもなくて、ところどころに白黒の小さなカットが入っています。小さな本のくせに色を使っていまして、赤い枠なんかが入っています。じゃあ中身はどうなっているのでしょう。本の前書きに『のはらうた』のできたわけ、という文があるので、これを読んでみます。
 『あるひ のはらむらを さんぽしていますと、かぜ
 みつるくんが みみもとを とおりぬけていきました。
 とおりぬけながら はなしてくれたことばが、うたの
 ようでした。
  「まるで うたみたい」
  「そうかいそうかい」
  「かきとめておこうか」
  「たのむぜ」
 かぜは そういって、やまのほうへ はしっていきま
 した。
  あるひ やぶのなかで こしをおろしていますと、
 だれかが スカートをひっぱるので、だれかとおもっ
 たら こねずみしゅんくんです。
  どんぐりをかかえて、うたを うたってくれます。
  「かきとめておこうか」
  「うん、おねがい」
 こねずみは そういって、やぶのなかを はしってい
 きました。
  のはらむらのみんなが しゃべるたびに、うたうた
 びに、わたしは それを かきとめました。
  そのうたが たまって ほんになったのが、「のは
 らうた」です。
  のはらむらのみんなは、ひとり1さつずつ このほ
 んをもっています。
  へびいちのすけくんは、さんぽのまえに このほん
 をよむと ぐあいがいいそうです。
  みのむしせつこさんは、よいゆめが みられるそう
 です。
  わたしは、せんたくをするとき のはらうたをうた
 いながらやると、ちょうしがでます。
  あなたもいかがですか?

   のはらみんなのだいりにん
               くどうなおこ』

という前書きです。のはらの連中がいろいろな歌を歌いながら、あっちこっちで雲として流れていったり、雨粒として降ったりしているのを聞いてかわりに書き留めたよという形になっています。じゃあ、のはらみんなにはどんな連中がいるのでしょう。『のはらうた』の1巻にはかぜみつるくんという風とか、すみれほのかさんというスミレがいます。こぶなようこという鮒がいます。グループメダカというのもいます。あげはゆりこ、いけしずこ、かたつむりでんきち、けやきだいさく、へびいちのすけ、とかげりょういち、かえるたくお、こいぬけんきちといろいろいます。
 なぜこういうのができたかというと、『こぶたはなこさんの おべんとう』という絵本のフロクとして新聞を作った。のはら村の発行している新聞というカタチにして『さんぼんまつタイムス』という名前にしました。新聞を作ろうとなると、この新聞を誰が編集するのか。編集長もいるなとなりました。編集長だったらやっぱり頭がよくてしっかり頼もしいおじさんみたいな人がいいなと思って編集長はフクロウにしました。おじさんのような名前がいいなと思って、ふくろうげんぞうという名前をつけたのです。新聞をつくったら社説もいるし、農協も欲しいし、役場も欲しいとなってきます。たとえば「この間の大雨で橋が流れてしまいましたので、今度の日曜日、あの橋を掛け直す工事をします。みんな手の空いている人は出てきてください」というお知らせを書きました。すると、いろいろとそこにいる村人の名前も欲しくなります。さあ責任者は誰にしようかなと考えて、こういうことの面倒をみるのは土木関係に強い猿じゃないかなと思ったのです。そして名前もつけないといけないなというので、こざるいさむくん、モグラもいいなと思って、もぐらたけしくん・・・こうやって村人の名前ができました。
 また、文学的なものも欲しいなと思ったので、村人の誰かが詩を書くコーナーをつくろうと考えたのです。小さな枠を作りまして、『ときどきのうた』というタイトルにしました。ところで誰に書いてもらおうかなと思ったときに、季節がちょうど秋でしたので、誰かがどんぐりのことを歌えばいいなと思いました。どんぐりのことを歌うとしたら誰かなと思ったら、それはリスか子ネズミなんですね。リスの方はこりすすみえさんというのがもう絵本で出ていました。だから新しく子ネズミ君をいれなきゃと思って、こねずみしゅんという名前で『どんぐり』という詩をその新聞に載せました。どういうのを書いたか、紹介します。

『どんぐり』
         こねずみしゅん

 どんぐりが ぽとぽとり
 やぶのなか ころころり
 のねずみが ちろちろり
 おいしいぞ かりこりり

という詩です。『さんぼんまつタイムス』は、人気が出ました。小さなお子さんや、お母さんたちが、出版社の方に「絵本はもう買ったんですけど、あの新聞の方をあと10部ばかり送ってください」と言ってこられたりして。そして『どんぐり』の詩が小さい子たちに人気だったのです。出版社の人と、「へえ、こういうのって小さい子たちおもしろがってくれるんだ」という話になりました。その出版社の人が「直ちゃん、ああいう詩、いったいどうやって作るの」って言うのです。「簡単ですよ。子ネズミの気分になりゃすぐできます」と答えました。「朝飯前でも、朝飯後だって、おやつにだってすぐできますよ」なんて大きなことを言ったものですから、出版社の人が「じゃあ、直ちゃん、そういうみんなが歌った詩だけで1冊本を作りたいもんだ」と言いだしたのです。「できる?」って言うから、「うわーおもしろい、できる、できる」と答えました。それから半年くらい、その出版社の人が毎日夕方近くになると、「直ちゃん、今日はできた?」って電話をかけてくるのです。できてなくても「あっ、今考えてるところ、もうちょっとしたらできるよ」なんて答えて、それから一生懸命考えたりなんかしました。そんな感じでどんどんためていきました。みんなおもしろがってくれました。「今度は何になったの」「うん、今度はカマキリだよ」「へえ、カマキリになったらどんな詩になるの」などと言い合って楽しんで作ったのです。
 私の中には日本語を目で読むとき、丸いひらがな、柔らかいひらがなだけで読めるのが好きという気持ちがありました。だいぶ悩んで、私は全部ひらがなにしたいと言いました。それに、漢字を使ってしまうと、つい熟語、つまり難しい意味が入ってしまう言葉を使いがちになります。それで思い切って全部ひらがなにして、後は本の形まで考えました。手のひらに入るような本にしたいと思いました。小さい頃に秘密の小箱とか、秘密の引出しというのを持っていた記憶があると思います。そういう箱の形になるようにしたいと思いました。
 本文は全部ひらがな、それに誰が書いているかというと、へびいちのすけだの、かぜみつるだのというふざけた名前のものが書いています。大人の人は読んでくれないだろうと思うし、小さな子たちが読んでくれるだろうかというと、小さい子たちは文離れしているといわれてます。絵本でも詩の絵本は特に売れないことになっていましたし、これは絵本でもないのです。この本を誰が買ってくれるか全然わからないけれども、せめて私たちだけでも楽しんだのだからいいかと思って恐る恐る出しました。ところが意外にも、2週間で再販になりました。一つは小さいから場所を塞がなかったのだと思います。それ以後、12年たっていますけれども、いわゆる再版する率が同じなんです。いつもいつも何か月後かに売れていくのが上がりもしなければ下がりもしないのです。ずっと十何年間同じなんです。みんなに同じように遊んでもらえているというのが大きいなと思います。
 今まで、愛読者カードをくださるのはだいたい小さなお子さんとお母さんだったのですが、このときは、まずお年を召した男性の方でした。ご自分が少年の頃に見た風景を思い出したよという便りが多くありました。その後に来たのが中学校くらいのお嬢さんから来たものが多く、それから高校生となり、その後に小さいお子さんを持っているお母さんからが増えました。その後小さいお子さんと先生方というふうになって現在に至っています。まず中学校の人たちが割りと好きだなといってくれた詩を朗読します。

『「し」をかくひ』
           かぜみつる

 ゆうべ
 くりのきのとこ とおったら、さ
 みのむしのやつ ないているのさ
 こわいゆめ みたのだって
 まだちいさいし、な
 むりないよ

 おれ あしたのぶんに とっておいた
 そよかぜをだして ゆすってやった
 みのむしのやつ わらってねむったぜ

 あんまり かわいくて、さ
 とうとう そよかぜ ぜんぶ
 つかっちまって、さ
 だから おれ きょう おやすみ
 ひまだから「し」かいてるの

という詩です。

 次に、『のはらうた』で、人気の両横綱の一人をあげます。幼稚園とか保育園とか、小学校の低学年の子どもがなぜか圧倒的に贔屓するのが、へびいちのすけ君の『あいさつ』です。へびいちのすけというへびが書きました。

『あいさつ』
         へびいちのすけ

 さんぽを しながら
 ぼくは しっぽに よびかける
 「おおい げんきかあ」
 すると むこうの くさむらから
 しっぽが ハキハキ へんじをする
 「げんき ぴんぴん!」
 ぼくは あんしんして
 さんぽをつづける

 横綱のもう一人。これは小さい人たちと一緒に、なぜか40代前後のお母さまたちが贔屓にしています。かまきりりゅうじ君の『おれはかまきり』です。

『おれはかまきり』
            かまきりりゅうじ

 おう なつだぜ
 おれは げんきだぜ
 あまり ちかよるな
 おれの こころも かまも
 どきどきするほど
 ひかってるぜ
 おう あついぜ
 おれは がんばるぜ
 もえる ひをあびて
 かまを ふりかざす すがた
 わくわくするほど
 きまってるぜ

という詩です。

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