お里は父親から今夜祝言の盃をさせてやろうと言われたので嬉しくてたまりません。そこへ、突然勘当されていた兄の権太が戻り、懐の人相書と弥助を照らし合わせ、何か企んで二人を奥にやりました。
権太は、甘い母親を空涙で口説いてうまく小遣銭をせしめましたが、あいにく父親の弥左衛門が帰ってきたので、慌ててその金を鮓の空桶に隠して逃げ込みました。
弥左衛門は帰る道で手に入れた小金吾の首を権太が金を隠した隣の空桶にそっと入れました。一息つくと弥助を呼び出して、梶原平三景時が自身で取調べに来るから上市村の隠居所に忍んでいてくれと言って奥に入ります。

　維盛の妻、若葉の内侍は六代君の手を引いて道に迷い、計らずも、この「つるべ鮓」の店先に一夜の宿を借りようと立ち寄ります。出てきたのは町人の姿になった維盛の弥助なので驚きましたが、一別以来の再会にその喜びはひとしおでした。 　お里は初めて弥助の素性を知り、所詮かなわぬ恋と諦めて、維盛親子を上市村の隠居所へと落としてやります。
　これを知った権太は、「訴人して褒美の金にするのだ」と叫び、父親が首を隠したほうの桶を、ひっ抱えるや一目散に走って行きました。 　一大事と弥左衛門が後を追おうとした時、梶原景時がものものしく入ってきます。

　梶原の厳しい詰問に弥左衛門が困っているところへ権太が首桶を抱え内侍と若君を縛って引いてきます。 　梶原は権太の手柄を賞賛して当座の褒美に頼朝公の陣羽織を与え母子を引き立てて行きます。
　計略が水の泡となり、弥左衛門は怒りの刃を権太のわき腹へ突き刺しました。 　権太は深傷に苦しみながら、間違えて持ち帰った桶の中に首があったので父親の忠義な心が判り、自分の子どもと女房を身代わりに立てて梶原を欺し、これまでの不孝を詫びる心算だったと打ち明けました。
　弥左衛門ははじめて知る権太の心根に胸を打たれますが、とき既に遅く、子に手をかけた悔恨の涙にくれるのであります。