発達と尊厳−身体の健康−1 
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脂肪組織の役割

 
脂肪組織の役割

 最近、脂肪組織からレプチンというホルモンが分泌されていることが分かりました。これは体重が増え始めると脂肪組織から分泌され、脳の視床下部にある満腹中枢を刺激して食欲を低下させ、消費エネルギーを増やす働きがあるということです。その結果、体重低下が起きます。それが右図の真ん中の矢印が示している図で、これは正常な時の状態を表しているものです。
 太るとレプチン分泌は増えますが、なぜか満腹中枢にきっちり働いてくれないため、なかなかやせません。そして、余分に分泌されたレプチンが肝臓に行って非アルコール性脂肪肝炎を促進します。また、心臓に行くと、動脈硬化を促進するのです。これは肥満に伴って起きやすい病気だということです。
β3アドレナリン受容体の働き
 レプチンだけではなくて、β3アドレナリン受容体というものも脂肪細胞の中に存在しています。β3アドレナリン受容体はエネルギー倹約遺伝子と呼ばれており、β3アドレナリンという物質を受けて、はじめて作用をします。右図の脂肪細胞の上のところにβ3−ARと書いてあります。これはβ3アドレナリン受容体の省略形を示しています。そして、これがきちんと働いていれば熱産生、あるいはこの図には書かれていませんが脂肪分解が起きます。しかし、β3アドレナリン受容体に変異が起きると、熱産生や脂肪分解という働きをしないのです。このように、脂肪はエネルギー貯蔵の役割だけでなく、脂肪そのものの貯蔵をコントロールする物質を分泌することがあきらかになってきました。
 日本人などアジア、アメリカ大陸を中心に住む黄色人種(モンゴロイド)は、インスリン分泌能力が白人の半分程度と言われています。アメリカ先住民のピマ族は、米国流の食生活になってから肥満が白人を上回るスピードで増え、世界で最も糖尿病の多い民族になってしまったのです。このピマ族は、なんと10人に9人が肥満と判定されています。これはなぜでしょうか。科学的な論文の報告を見ますと、β3アドレナリン受容体の変異がピマ族にたくさん起きていると書いてあります。そして、2番目に日本人が多いそうです。日本人の3割近くが、このβ3アドレナリン受容体の変異が起きているそうなのです。この変異が起きている人は、なかなか体重が減らないということがあるかもしれません。ここで、インスリン分泌能力が白人の半分程度という表現が気になりますが、インスリンというのは基本的に量が少なくても、効き目が十分あればいいのです。糖尿病になる前の状態では、インスリン分泌量が非常に高くなってきています。つまり、インスリンの血液中の濃度が非常に高くなっているのですが、高くなっても効き目がありません。したがって、ますます、すい臓からインスリンが分泌されるという悪循環に陥っているのです。そうこうしているうちに、すい臓が働きすぎてインスリン分泌をしなくなります。そうすると、外からインスリンを注射せざるを得ない状態になってくるのです。
 ちなみに、最近インスリンダイエットという方法が流行っているのをご存知ですか。インスリンとは、血液中の糖が増加すると、分泌増加し、肝臓や筋肉に送りこんで血糖を下げる働きと、さらに余分な糖を中性脂肪として脂肪細胞に蓄えるのを促進するホルモンです。糖分の高い食べ物を食べると、インスリンが出てきて余分な糖分を肝臓や筋肉に溜め込んでいきます。そうすると、糖分も脂肪に変えられて蓄えられていくのです。そこで、極力インスリン分泌をおこさないようにすれば脂肪が貯えられなくなると考えられているのです。食べ物の中には、インスリン分泌がおこりにくい物があります。あるいは、インスリンの出る速さが遅い等、そういった考え方を基にしてインスリンダイエットが行われているのです。
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